ミラノの型紙
サルトの仕立てるスーツは、地域によってその作り方も様々のようです。
ティンダロ氏の仕事を見学していてとても驚いたのが、型紙の違いです。
普通、型紙を引く時はその名の通り紙に線を引いて行くのが一般的だと思いますが、ティンダロ氏の場合はスレキにチョークで引いておられました。
これはミラノでは一般的な方法のようです。おそらくカラチェニが考案した方法なのでしょう。
ナポリでは本番の生地に直接チョークで型紙を引く、いわゆる「直断ち」が多いようですが、場合によっては型紙を作る事もあり、その場合は紙にチョークで線を引いてカットして使っていました。
同じイタリアでも随分違いがあるのだと驚いたものです。
ただ単にスレキか紙か直断ちか、というだけの違いではなく、更に驚いたのはこの後。
スレキに線を引いてカットした後、ダーツを縫い合わせ、それを生地の上に置いてまた線を引いて、、
最初見た時は全く意味が分からずポカンと眺めていました。
後でその目的を聞いてなるほどと思ったのですが、同じスーツの作り方でも本当に色々な考え方があるものだと思いました。
余談ですがこの後、氏に私の引いた型紙を見てもらったのですが、それはそれは酷いお叱りを頂いてしまいました。。
基本的に私は型紙に関してはほぼ我流でやっておりまして、当時は経験年数もまだ少なかった事もあり、今考えると確かに無茶苦茶な型紙だったかなと思います。
氏に叱られて以来、社内では「こいつダメなんじゃね?」みたいな雰囲気になり、入社早々強烈な逆風が吹いたのでした(笑)
あの当時を思い出すと暗澹たる気持ちになりますが、逆風を跳ね返すのをモチベーションに出来ましたし、また最初に鼻っ柱をへし折って頂けた事は、今思えば本当にありがたかったと思います。
当時はミラノの型紙と自分の目指すスタイルは違うのだからと思っていましたが、今になってあの時習ったポイントの重要性がやっと理解出来て来た部分もあります。
ティンダロ氏も3年程前に他界されてしまいましたが、あの時に厳しいご指導を頂いたことを今改めて感謝したいと思います。